☆Vol.6 戸ノ下達也
子どもの頃、なぜか軍歌や戦時歌謡が好きだった。
もちろんそれは僕がみずからセレクトしたものではなく、家に何枚も軍歌のレコードが置いてあったから、自然とそうなったまでである。
当時は、曲の背景とか、もっというと戦争そのものに対する知識はなく、単にメロディを聞いていただけなので、後年、曲にまつわる様々な話を聞くにつけ、複雑な想いがしたことを思い出す。
◎
そんな中で、映像の中で戸ノ下さんも述べているが「海ゆかば」に対する思い出だけは強烈だ。
ある時、母親と話をしている時、ひょんなことから軍歌の話になった。
その時僕は、母が「海ゆかば」という言葉を自分の口から発しただけで、背筋をぴんと伸ばし、目頭が熱くなっていく様子をはっきりと見て取ったのである。
これは大変なことだ…率直にそう思った。
◎
「歌には人の人生を変えるチカラがある」
…これはちょっと古ぼけた命題だが、何十年たっても条件反射的に母の背を伸ばし、目頭を熱くさせる音楽に、僕は脅威すら覚える。
もし本当に歌に人を扇動し、その人の人生に決定的な影響を与えるチカラがあるとするならば、音楽はある意味で「劇薬」にもなりうるのだ。
しかも、取り返しのつかない劇薬に。
そんなことを考えながら、戸ノ下さんとのインタビューに臨んだ。