☆Vol.5 鳥居誠(SEIBI工房代表)
ビクターエンタテインメントで働きはじめた時、
「ディレクターの仕事というのは新しく録音するだけが能じゃない。
会社の財産、つまり古い音源の再活用も大事な仕事だぞ、わかったかい」
と先輩ディレクターから教えられた。
もちろん僕は当時、希望に燃えるディレクターとして
《毎日録音スタジオに籠り音楽を作るんだ!!》と意気込んでいた。
だから、先輩の言葉にはちょっとガッカリした。
でも、実際、カイシャの中に入ってみるとそんなに「新録音」の仕事はなく、
会議でも「再活用、再利用」なんて言葉が飛び交っているのを見て、
シゴトっていうのはそんなものなんだな、と納得したことを覚えている。
◎
ビクターだけの言い回しだったのかもしれないが、
このような財産を活用した仕事を「編成」と言った。
そしてこの編成の仕事、かなり難しい仕事だと感じたのは、わりとすぐだった。
一見、ありものを使いまわすだけだから、楽に見える。
とんでもない、そこには音源に対する理解、業界全体を見渡す能力、
そして特別な編集の感性が必要だった。
僕はこの編成の仕事でずいぶん鍛えられた。
そのうちに財産の中に、本当に自分のやりたいことを
スーっと入れる技術も習得した。
これも大先輩方が教えてくれたことだ。
◎
鳥居さんはそんな頃のカイシャの先輩。
通称はその名の通り「バード」。
鳥居さんが何やら面白いことを始めたという噂を聞いたのは昨年の秋くらい。
しかも古い音源をデジタル化して、イベントとして「聞く会」を開くという。
「音源の価値」を知り尽くした鳥居さんらしい仕事だな、と思った。
そして、どんな動機でそんなことを始めたのかを聞きたいと思い、お招きした。
鳥居さんは昨年リリースされた11枚組のCD
「人間国宝 女流義太夫 竹本駒之助の世界」で見事、芸術祭優秀賞を受賞した。
まさに乗りに乗っている感じ。
そんな鳥居さんが企画する会が面白くないわけがない。
そんなところをあの「笑顔」からくみ取っていただきたい。